訪問歯科では、虫歯や歯周病の治療から入れ歯の作製・調整、専門的な口腔ケアまで幅広く対応できます。
「自宅では歯磨きの介助程度しか受けられない」と思われることもありますが、訪問歯科では治療を含む幅広い診療に対応しています。
訪問診療では、ポータブルユニットなどの持ち運び可能な歯科用機器を使用し、居室やベッドサイドでさまざまな処置を行います。
一方で、大型設備を要する処置など、訪問では対応が難しい治療も存在します。
本記事では、訪問歯科でできること7つを軸に、対応が難しいケース、費用と保険の仕組み、利用開始までの流れを解説します。

訪問歯科とは?通院が難しい方のための歯科診療
訪問歯科(歯科訪問診療)は、歯科医師や歯科衛生士が患者さまの自宅・施設を訪問し、治療や口腔ケアを行う医療サービスです。
専用の可搬型機器を用いることで、虫歯治療や入れ歯の調整など、さまざまな診療に対応できます。
ただし、患者さまの全身状態や訪問先の環境によって、実施できる治療の範囲には差が生じます。
訪問歯科と一般的な歯科医院の違い
最も大きな違いは、患者さまが通院するか、歯科医療従事者が訪問するかという点にあります。
訪問歯科では診療機器を持参し、居室やベッドサイドで治療を行います。
院内のユニットやレントゲン装置をそのまま使用できるわけではないため、診療環境には一定の制約があります。
なお、要件を満たせば訪問歯科でも保険診療を受けられますが、対象は通院が困難な方であり、「自宅で受けられる便利な歯科診療」という位置づけではありません。
訪問歯科を利用できる人
対象となるのは、病気やけが、障害、要介護状態などにより歯科医院への通院が困難な方です。
年齢による線引きはなく、高齢というだけで一律に対象となるわけではありません。
また、保険診療として行う歯科訪問診療は、原則として歯科医院から半径16キロメートル以内が対象です。
ただし、その歯科医院からの訪問診療が必要となるやむを得ない理由がある場合は、16キロメートルを超えて認められることもあります。
訪問歯科でできること7つ

訪問歯科の役割は、予防的な口腔ケアにとどまりません。
虫歯や歯周病の治療、入れ歯への対応など、生活の質に直結する診療にも幅広く対応します。
ここでは代表的な以下の7つの診療内容を紹介します。
- 虫歯の治療
- 歯周病の治療
- 入れ歯の作製・修理・調整
- 抜歯などの外科処置
- 口腔ケア・口腔衛生管理
- 摂食嚥下機能への対応
- 定期的な歯科検診・予防管理
実施できる範囲は患者さまの全身状態や診療環境、歯科医院が保有する機器によって異なるため、事前に確認してください。
| 診療内容 | 訪問歯科での対応例 |
|---|---|
| 虫歯治療 | 虫歯の診察、歯を削る処置、詰め物による修復など |
| 歯周病治療 | 歯ぐきの状態確認、歯垢・歯石の除去、歯磨き指導など |
| 入れ歯 | 新規作製、修理、痛み・外れやすさ・噛みにくさの調整 |
| 抜歯などの外科処置 | 症例や全身状態に応じて対応可能。難しい場合は病院歯科などと連携 |
| 口腔ケア | 歯・舌・粘膜・義歯の清掃、本人や介護者へのケア指導 |
| 摂食嚥下への対応 | 食べる・飲み込む機能の確認、姿勢や口腔機能に関する指導 |
| 定期検診・予防管理 | 虫歯・歯周病・入れ歯の不具合などの定期的な確認 |
1.虫歯の治療
訪問歯科では、まず口腔内を確認して虫歯の進行状態を把握します。
歯を削る処置には携帯型の治療機器を使用し、詰め物による修復まで対応できる場合もあります。
一方、虫歯が深く進行している場合や、治療に長時間を要する場合には、訪問先での対応が難しくなることもあります。
どこまで実施できるかは、患者さまの状態や歯科医院の体制によって異なります。
相談の段階で対応範囲を確認しておくことが大切です。
2.歯周病の治療
歯ぐきの炎症や歯の動揺を確認したうえで、歯垢・歯石の除去を行います。
あわせて実施するのが、本人や介護者に向けた歯磨き指導と口腔衛生管理です。
加齢や疾患などによって手指を動かしにくくなると、セルフケアだけでは十分に歯垢を除去できない場合があります。
歯周病は治療後の管理を怠ると再び悪化する疾患であるため、定期的な訪問による継続的な口腔管理が重要な意味を持ちます。
3.入れ歯の作製・修理・調整
入れ歯への対応は、訪問歯科の代表的な診療の一つです。
新しい入れ歯の作製はもちろん、「痛い」「外れる」「噛みにくい」といった不具合の調整、破損した入れ歯の修理にも対応します。
型取りから完成、装着後の微調整までは複数回の訪問が必要です。
入れ歯の不具合は、噛みにくさや食事のしづらさにつながることがあります。
そのため、食生活や生活の質を維持するうえでも適切な調整が重要です。
4.抜歯などの外科処置
歯の状態によっては、訪問先で抜歯に対応できる場合もあります。
ただし実施前には、抗凝固薬や抗血小板薬の服用状況、基礎疾患、全身状態の確認が不可欠です。
出血のリスクが高い場合や、埋伏歯の抜歯など難易度の高い処置が必要な場合には、医科の主治医と連携したり、病院歯科・口腔外科へ紹介したりすることがあります。
訪問であればどのような抜歯にも対応できる、というわけではありません。
5.口腔ケア・口腔衛生管理
口腔ケアは、単なる歯磨きの代行ではありません。
歯科衛生士などが口腔内の状態を確認し、歯垢や汚れの除去、義歯の清掃、粘膜や舌の清掃などを行います。
さらに重要なのが、本人や介護者への助言です。
日々のケアで難しい部分を具体的に共有することで、訪問と訪問の間も口腔内を清潔に保ちやすくなります。
口腔内を清潔に保つことは、虫歯や歯周病などの予防だけでなく、口腔機能を維持するうえでも重要です。
6.摂食嚥下機能への対応
「食べる」「飲み込む」という機能の状態を確認し、必要に応じて口腔機能の維持・改善を目的とした指導や訓練を行います。
食事中のむせや食べこぼしが気になる場合の相談先にもなります。
助言の対象は口の中だけにとどまりません。食事の際の姿勢や、義歯の適合を含めた口腔環境も対象です。
誤嚥のリスクが疑われる場合には、必要に応じて医師や管理栄養士、言語聴覚士などと連携することもあります。
7.定期的な歯科検診・予防管理
訪問歯科は、痛みが出てから駆けつけるだけの診療ではありません。
定期的に口腔内をチェックし、虫歯や歯周病の進行、入れ歯の不具合を早期に発見する予防的な役割も担います。
とりわけ意義が大きいのが、認知症などにより自分から症状を訴えにくい方への対応です。
歯科医師や歯科衛生士が定期的に口腔内を確認することで、異常の早期発見につながります。
訪問歯科ではできない・対応が難しいこともある

訪問歯科は幅広い診療に対応できるものの、歯科医院とまったく同じ環境が再現されるわけではありません。
持ち込める設備には限りがあり、患者さまの全身状態によっても実施可否は変わります。
以下に挙げるのは、一律に「できない」という意味ではなく、症例や医院によって判断が分かれる治療です。
- 大型設備や高度な医療機器が必要な治療
- 全身管理が必要な外科処置
- 患者さまの体調や姿勢によって難しい治療
- 対応が難しくなるケース
大型設備や高度な医療機器が必要な治療
訪問先には持ち込めない設備を必要とする処置は、対応が難しくなります。
例えば、歯科用CTによる画像診断や、大型の機器を必要とする処置などが挙げられます。
また、詳細な検査を要するケースや、高度な技術が求められる治療も同様です。
このような場合は、通院が可能な範囲で歯科医院を受診する、または病院歯科を紹介してもらうなどの方法が検討されます。
まずは訪問時に相談してみましょう。
全身管理が必要な外科処置
難易度の高い抜歯や、処置中の血圧・全身状態の管理が必要となるケースでは、訪問先での実施が適さない場合があります。
基礎疾患の種類や重症度、服薬状況によっては、処置に伴う出血や感染などのリスクに配慮する必要があるためです。
このような場面で優先されるのは安全性です。
歯科医師の判断により、入院設備や医科との連携体制が整った病院へ紹介されることもあります。
患者さまの体調や姿勢によって難しい治療
長時間同じ姿勢を保てない、開口の維持が難しい、その日によって体調が変動する場合など、治療に影響することがあります。
無理に処置を続ければ、患者さまの負担が大きくなるためです。
そのため、1回あたりの診療時間を短くし、複数回に分けて治療を進めることもあります。
体調に合わせて計画を柔軟に組み替えながら、必要な治療を段階的に完了させていきます。
訪問歯科を利用するメリット

訪問歯科の価値は、受けられる診療内容だけにあるわけではありません。
訪問という形態そのものが、通院困難な方と支える家族の双方にとって負担の軽減につながります。
代表的な3つのメリットは、以下のとおりです。
- 通院による身体的な負担を軽減できる
- 家族や介護者の負担を軽減できる
- 生活環境に合わせたアドバイスを受けられる
順に見ていきましょう。
関連記事:訪問歯科のデメリット7つ|メリットや利用前に確認したいポイントも解説
通院による身体的な負担を軽減できる
歩行や長時間の座位が難しい方は、歯科医院に通院することは大きな負担がかかります。
訪問歯科の場合、通院は不要です。
車椅子での外出準備や介護タクシーの手配、歯科医院の待合室での待機なども必要ありません。
住み慣れた自宅や入所中の施設で診療を受けられる点もメリットです。
環境の変化による負担を抑えやすく、認知症のある方に適している場合もあります。
家族や介護者の負担を軽減できる
通院には、付き添いや送迎に加えて、日程調整という時間的な負担も伴います。
訪問歯科を利用することで、こうした負担を軽減できる可能性があります。
さらに、日々の口腔ケアの方法を歯科医師や歯科衛生士に直接相談できる点も見逃せません。
実際の口腔内を一緒に見ながら助言を受けられるため、疑問を解消しやすくなります。
関連記事:訪問歯科は本当に「きつい」?利用者家族が感じる負担と軽減策を解説
生活環境に合わせたアドバイスを受けられる
訪問歯科では、普段の食事内容や介護の状況を踏まえた助言が可能です。
使用している歯ブラシや義歯洗浄剤、食事の形態まで確認できるため、実情に即した提案につながります。
得られた情報を、本人や家族、介護スタッフの間で共有しやすい点も特徴です。
必要に応じてケアマネジャーや訪問看護師などの他職種と連携し、口腔ケアを日常の介護計画へ組み込む流れも生まれます。
訪問歯科にかかる費用と保険

訪問歯科を検討する際、費用がどの程度かかるのか気になる方もいるでしょう。
要件を満たす歯科訪問診療には医療保険が適用され、介護保険の対象となる場合もあります。
訪問歯科は医療保険が適用される
一定の要件を満たす歯科訪問診療は、医療保険の対象です。
実際の支払額は、加入している公的医療保険の自己負担割合に応じて決まります。
治療内容によって金額が変動する点は、外来と同じ仕組みです。
ただし、外来診療と同じ費用になるとは限りません。
訪問診療では、歯科訪問診療料などが算定されるためです。
また、歯科医院によっては交通費が別途必要となる場合もあります。
口腔管理などでは介護保険が関係する場合がある
要介護・要支援の認定を受けている方が、歯科医師や歯科衛生士から療養上の管理・指導を受ける場合、居宅療養管理指導として介護保険が適用されるケースがあります。
虫歯治療や入れ歯の作製などの歯科治療には医療保険が適用されます。
一方、要介護・要支援者に対して歯科医師や歯科衛生士などが一定の要件のもとで療養上の管理・指導を行う場合には、介護保険の居宅療養管理指導が適用されることがあります。
適用される制度は個々の状況で異なるため、費用の詳細は利用前に歯科医院へ確認してください。
訪問歯科を利用するまでの流れ

初めて訪問歯科を利用する場合、どこに連絡すればよいのかが分かりにくいという声は少なくありません。
実際の手順は、以下の4つのステップです。
- 歯科医院へ相談する
- 訪問日時を決める
- 訪問先で診察・治療計画を立てる
- 定期的な診療・口腔管理を受ける
全体像を把握しておけば、行動に移しやすくなります。
1.歯科医院へ相談する
最初の一歩は、訪問歯科に対応している歯科医院への相談です。
連絡するのは本人や家族に限らず、ケアマネジャーや施設の担当者が窓口となるケースもあります。
かかりつけの歯科医院がある場合は、まず訪問診療に対応しているか確認するとよいでしょう。
伝えるべき情報は、現在の症状、通院が困難な理由、住所、全身状態や服薬内容など。
あわせて訪問可能エリアに含まれるかどうかも確認します。
2.訪問日時を決める
相談内容をもとに、初回の訪問日時を調整します。
施設に入所している場合は、施設側の受け入れ体制やほかの予定との兼ね合いも考慮した日程調整が必要です。
準備するものとしては、マイナ保険証または資格確認書、介護保険被保険者証、お薬手帳などが挙げられます。
使用中の入れ歯がある場合は、当日そのまま確認してもらえるよう手元に用意しておきます。
3.訪問先で診察・治療計画を立てる
初回訪問では、口腔内の状態に加え、全身状態や生活環境を確認します。
そのうえで、必要な治療やケアの内容、想定される訪問回数について説明を受ける流れです。
疑問があれば、この段階で質問しておくことが望ましいといえます。
治療は患者さまの体調に配慮しながら進められ、負担が大きいと判断された場合には計画が見直されます。
4.定期的な診療・口腔管理を受ける
訪問歯科は、虫歯治療が終わった後も継続して利用する場合があります。
入れ歯の調整、歯周病の管理、口腔衛生状態の維持など、継続的な対応が必要となるケースは少なくありません。
そのため、口腔内の状態に応じて、治療後も定期的な訪問による管理を続ける場合があります。
訪問の頻度や内容は、口腔内の状況と全身状態の変化に応じて調整されます。
関連記事:訪問歯科で気をつけること|依頼前の5つの確認と失敗しない医院の選び方
訪問歯科でできることに関するよくある質問

ここでは、訪問歯科の利用を検討する際に寄せられることの多い質問を取り上げます。
個別の可否は患者さまの状態や歯科医院の体制によって変わるため、最終的な判断は相談先の歯科医院に確認してください。
訪問歯科でも虫歯を削って治療できますか?
訪問診療用の可搬型機器の使用により、歯を削る治療に対応できるケースが見られ、詰め物による修復まで行えることもあります。
ただし、虫歯の進行度、開口の維持が可能かどうか、訪問先の電源や給水の状況によって対応範囲は変わります。
事前に症状を伝え、対応可能な治療の範囲を確認しておくことが大切です。
訪問歯科で入れ歯を作ることはできますか?
対応可能です。
新規作製に加え、調整や修理にも幅広く対応します。
合わない入れ歯を使い続けると、痛みや噛みにくさによって食事に支障が生じることがあります。
不具合がある場合は、早めに歯科医師へ相談することが大切です。
なお、新しく作製する場合は型取りから完成、装着後の調整まで複数回の訪問が必要です。
完成までの期間は状態により異なるため、初回診療時に見通しを確認してください。
寝たきりでも訪問歯科を受けられますか?
寝たきりなどにより通院が困難な方は、訪問歯科の対象となり得ます。
ベッド上での診療にも対応しており、姿勢の保持や体位の工夫を行いながら処置を進めます。
診療時には、全身状態への配慮も必要です。
誤嚥のリスクや呼吸状態などを踏まえ、必要に応じて1回あたりの診療時間を短くするなど、患者さまの負担に配慮して進めます。
訪問歯科は自宅以外でも受けられますか?
介護施設や、高齢者向け住宅などで受けられる場合があります。
歯科のない医療機関に入院中の方が対象となるケースもあります。
一方、デイサービスやデイケアなどの通所施設は、原則として歯科訪問診療を受ける「居宅・療養場所」には該当しません。
訪問先として認められるかは施設の種類や患者さまの状況によって異なるため、歯科医院へ確認が必要です。
場所や状況によって条件が異なるため、まずは歯科医院や施設の担当者へ確認してください。
堀田院長の総評|訪問歯科では虫歯治療から入れ歯・口腔ケアまで幅広く対応できる
訪問歯科でできることは、虫歯の治療や歯周病の治療から専門的な口腔ケア、定期的な検診や予防管理など多岐にわたります。
可搬型の歯科機器を活用することで、自宅や施設でもさまざまな治療が可能です。
一方で、大型設備を要する治療や全身管理が必要な処置など、訪問先では難しい領域もあります。
対応範囲は患者さまの状態と歯科医院の体制によって異なるため、事前の確認が大切です。
通院が難しく、訪問歯科を検討されている方は、歯科ドクターHaへお気軽にご相談ください。
